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OUR SECRET WORLD


アワー・シークレット・ワールド

カート・ローゼンウィンケル

01

アワー・シークレット・ワールド
Our Secret World

6:34

02

ザ・クロイスター
The Cloister

9:18

03

ジバゴ
Zhivago

8:45

04

ドリーム・オブ・ジ・オールド
Dream of the Old

11:34

05

ターンズ
Turns

6:38

06

ユース・オブ・ライト
Use of Light

10:10

07

パス・オブ・ザ・ハート
Path of the Heart

13:08

原題

KURT ROSENWINKEL & OJM 『OUR SECRET WORLD』

価格:¥2,500 (税抜価格:¥2,625)

規格番号:SONG X 001

POS/JAN:4571381530012

発売日:2010年9月15日

iTunes他デジタル配信予定:2010年10月予定

作曲

カート・ローゼンウィンケル
All Compositions by Kurt Rosenwinkel

プロデュース

ペドロ・ゲヂス+カート・ローゼンウィンケル
Produced by Pedro Guedes and Kurt Rosenwinkel

演奏

カート・ローゼンウィンケル:ギター
Kurt Rosenwinkel: Guitar

オルケストラ・デ・ジャズ・デ・マトシニョス(OJM)
Orchestra de Jazz de M atoshinhos

José Luis Rego, João Pedro Brandão, João Mortágua,Nuno Pinto, Mário Santos, José Pedro Coelho, Rui Teixeira: Woodwinds
Michaël Joussein, Álvaro Pinto, Daniel Dias, Gonçalo Dias: Trombones
Nick Marchione, Erick Poirrier, Rogério Ribeiro, José Silva, Susana Santos Silva: Trumpets
Abe Rábade, Carlos Azevedo: Piano
Demian Cabaud: Double Bass
Marcos Cavaleiro: Drums

編曲

カルロス・アゼヴェド(1, 4, 5, 6)、オハド・タルモール(2, 3)、ペドロ・ゲヂス(7)
Arranged by Carlos Azevedo (1,4,5,6), Ohad Talmor (2,3), Pedro Guedes (7)

指揮

カルロス・アゼヴェド(1, 4, 5, 6)、ペドロ・ゲヂス(2, 3, 7)
Conducted by Carlos Azevedo (1,4,5,6), Pedro Guedes (2,3,7)

録音

マリオ・バレイロス、ジョアン・ベッサ
2009年9月7-9日、ポルト、ブーム・スタジオ
Recorded by Mário Barreiros and João Bessa at Boom Studios, Porto, Sep.7-9.2009

オリジナル・アートワーク・ディレクション+デザイン

リカルド・ヴェッキオ
Original Artwork & Design by Ricardo Vecchio

updated on August 22, 2010

ビッグバンドで描くキュビズムの音楽

トム・ムーン text by Tom Moon



このアルバムが旧態依然のビッグバンドアルバムでないことを明かす最初のヒントは、1曲目の約90秒にまず表れる。曲は「Our Secret World」。曲がりくねった旅路のようなこの曲を普段カートは少人数のグループで演じてきた。トランペットとのタイトなユニゾンによって幕を開け、テーマを弾きおえると、ギタリストは奇妙に新鮮なフレーズからソロを開始する。

やがて、新たなコーラスパートがそれとわかるダウンビートとともにやってくるが、ポスト・バップ的な技巧が炸裂するにちがいないという予想を裏切ってローゼンウィンケルは単音でもって力強く着地する。サステインとともに放たれるその歓喜の叫びは、プログレッシブ・ロックや、ファンカデリックのエディ・ヘイゼルをほんの一瞬彷彿とさせる。しかし、あくまでもほんの一瞬だ。続く呼吸で、ギタリストは嘆願するかのような鋭い問いを空中へと放り投げると、続いてテナー・サクソフォニスト、ジョー・ヘンダーソンを思わせるハードバップ流儀のめくるめく音階研究を披露し、そうかと思えば、どんなジャンルの規定にも従うことのないフレーズでもって走り去っていく。カートは、めったに近接することのない音楽領域を果敢に橋渡ししてみせるが、それだけではない。彼は宣言する。われわれはもはやウッディ・ハーマン村の住人ではない、と。ビッグバンド音楽に対して、あるいはそこでギターが果たす役割について、どんなイメージをもっていようと、それは本作をもってオーバーホールされていくことになる。全面的にだ。

カート・ローゼンウィンケルとポルトガルの「オルケストラ・デ・ジャズ・デ・マトシニョス(OJM)との、生気にとんだ徹頭徹尾クリエイティブなコラボレーションを理解するための基本となる考えはここある。彼らが本作をもって近年活況を呈している新たなビッグバンド・ジャズの領域に参入を果たしたことは喜ばしいことだ。アンサンブルの3人のアレンジャーは、まず豊かな和声感覚に富んだギタリストのオリジナル曲から手をつけた。厳格に理論化された構造と甘美で無邪気な詩情がせめぎあう彼の楽曲は、ジャズの伝統に根ざしたものではあるが、彼の演奏同様すぐさま根本教義から逸脱し、膨大な語彙と音楽的好奇心を反映しながら、因習的なジャズの定義からほど遠い場所へと向かってゆく。実際、演奏を聴いていると、この冒険の推進力が、曲そのものにほかならないことがよくわかる。曲自体が、アレンジャーに不可避的に、大胆な一手を要求するのである。そこでは微分音の洪水から、ヘビメタの体感的な一撃を内包したこんがらがったコードまでを、楽器やテキスチャーのコンビネーションによって表現することが求められるのである。

このセッションにおいてローゼンウィンケルを最も感心させたのは、3人のアレンジャー--(オハド・タルモール、カルロス・アゼヴェド、ペドロ・ゲヂス)--が、楽曲にこめられたロジックやリリシズムを、あたかもジャズ・オーケストラのために書かれたものであるかのように翻案しなおしたことだ。「曲が魂で、バンドが肉体、みたいなものだね。彼らは、ぼくが空想で思い描いたどんな景色も自由に描くことができる空気を、素晴らしいテキスチャーと色彩でつくり上げてくれたんだ」。なかでも、とりわけタルモールが手がけた「ザ・クロイスター」と、ラジカルなまでの改変がほどこされた「パス・オブ・ザ・ハート」は、大きなチャレンジだったと語る。新たに仕立て上げられた和声によって、即興演奏にも異なるアプローチが求められた。「これらの曲を演奏してるとね」、ローゼンウィンケルは言う。「まるで自分の曲によって描かれたキュビズムの絵画のなかにいるようなんだ」

ローゼンウィンケルの原曲を知っている方はきっと似たような反応を示すことだろう。このアルバムは、まずなによりも、精緻な構造と切なく問いかけるようなテーマを併せ持った彼のコンポジションに新たな光を与える。本作にあっては、演奏者全員がオリジナルの「テキスト」(つまり、楽曲そのもの)に対してのみならず、ローゼンウィンケルの意図、思考そのものへの深いリスペクトを共有していることに気づかされる。とはいえ、単に楽曲を再配置することで満足するわけではない。この音楽に関わった全員が、根本的に新しい何かを探りあてることで決意をともにしている。ローゼンウィンケルは言う。このアルバムを聴きかえすたびに、一音一音のなかに共有された意図と旺盛な冒険心が漲っているのを感じることができる、と。「通常のビッグバンドは、必ずしもみんなが同じ気持ちで参加しているわけではないよね。でも、ここではみんなの心はひとつだ。レコーディングのときのぼくらの気持ちを一言でいうなら、『意気揚々』ってところだろうね。それは、きっとアルバムから聴き取れるはずだよ」

(訳:若林恵)

Tom Moon トム・ムーン

ナショナル・パブリック・ラジオの番組「All Things Considered」の制作に参加するほか、「1000 Recordings to Hear Before You Die」(死ぬ前に聴くべき1000の録音)の筆者でもある。

カート・ローゼンウィンケル プロフィール

updated on August 22, 2010

Production Note

[アワー・シークレット・ワールド] 制作ノート

カート・ローゼンウィンケルは、いつだって、音楽的な野心と心をつかんで離さないイマジネーションがないまぜになった広い視野をもった音楽を私たちに届けてきた。そのテクニック、独特の音色は、21世紀のジャズにおいて際だった存在感を放っているが、カートをほかの何者とも代え難いものにしているのは、その唯一無二の作曲センスだ。謎に満ち、エネルギーに富み、複雑さと単純さをいともたやすく結合させながら感情へと訴えるこの特質は、デビュー当初から顕著だったとはいえ、このビッグバンド・アルバム「カート・ローゼンウィンケル+OJM: Our Secret World」において、かつてないほど明らかにされる。


ここ数年、ローゼンウィンケルは、複数のビッグバンドとともに自身の音楽を共演する機会に恵まれてきた。そして、ビッグバンドが作品にもたらす、より複雑なテクスチャーに魅せられてきた。そこで彼は、ポルトガルを拠点とするオルケストラ・ジャズ・デ・マトシニョスから連絡を受けることになる。オハド・タルモール、リー・コニッツとの共演による「Portology」やアメリカの実力派サックス奏者と共演した「Orquestra Jazz de Matosinhos invites Chris Cheek」など、華々しいコラボを誇るバンドである(ちなみにクリス・チークは90年代のニューヨークでの日々をカートとともに過ごした同志にして友人だ)。


2008年にいくつかのコンサートをポルトガルにおいて成功させたローゼンウィンケルとOJMは、翌年にレコーディングを敢行することを決断。「3日間のリハーサルは、それは濃密なものだったよ。12時間のリハーサルは、ほとんど休憩なしだった」とローゼンウィンケルは回想する。「このプロジェクトの成功の秘密は、彼ら全員の姿勢と熱意にある。彼ら全員がぼくとぼくの音楽を最大限にサポートしてくれているのを感じた。もちろん、彼らにとっても大きな挑戦だったから、奮い立ってたよ。レコーディングの現場にみなぎってた情熱は、とても美しいものだった」


そして、OJMのコラボ歴には、ローゼンウィンケルの楽曲を力強いアレンジで聴かせる「Our Secret World」が加わることになった。本作は、カートにとっては、Standards Trio による「Reflections」に続く、インディレーベル「Wommusic」からの2枚目のリリースとなる。


「Our Secret World」で聴くことのできる楽曲は、OJMのアレンジャー、カルロス・アゼヴェドとペドロ・ゲヂスによって選ばれた。作曲者からの事前通達はなかった。「全部おまかせだよ」とローゼンウィンケルは言う。「そしたら彼らはぼくのレパートリーのなかでも最も難しい曲を選んできたんだ。ぶっとんだね。彼らがどれだけ真剣かがそのことでよくわかったよ」


出来上がった音楽は、真剣かつ目覚しい。アゼヴェドは、「Our Secret World」(Heartcore より)、「Zhivago」(The Next Step より)、「Dream of the Old」(The Enemies of Energyより)、そして「Turns」(未発表だが、カートのライブでは長らくお馴染みとなっている曲)に力強くも繊細なタッチを施し、ゲヂスは、「Use of Light」(Deep Song, The Next Step より)に、新たな詩的イマジネーションを上書きしていった。


加えて、サックス奏者にして才能溢れる作曲者でもあるオハド・タルモールが、OJMの依頼を受けて2曲ほどアレンジを手がけた。「The Cloister」(Deep Song より)と「Path of the Heart」(The Next Stepより)がそれだ。「オハドの場合は特例といっていい」とローゼンウィンケルは言う。「彼のアレンジは相当過激だからね。セッションの前に会ったときに伝えたのは『まかせるよ。新しいセクションもどんどん加えてくれ。やりたいようにやってくれよ』ということだった。彼はそれに従ったわけだが、ぼくの曲をまるでキュビズムで再構成したようなものになった。彼はぼくの作品をRAM(ランダム・アクセス・メモリー)として使用したわけだ。かばんに突っ込んで、がちゃがちゃ振ったら、さあ何が出てくるか、って具合にね」


Our Secret World には、堪能すべきディテールが満載されている。「Turn」における圧倒的な熱気から、「Use of Light」のアウト・コーラスで聴ける胸をかきむしるような微分音の抑揚、「Zhivago」における爆発するリードの同時ソロ、そして「Dream of the Old」におけるバスクラリネットとギターによる繊細な歌声。原型を押し流してしまうようなタルモールのアレンジにあっても、原曲の精妙さ、メロディックな本性は、演奏の奥底に秘められている。


つまるところ、Our Secret World に参加したアレンジャーは、ローゼンウィンケルの多彩な本質に光をあて、彼の音楽を彼の音楽たらしめているアイデンティティを理想的なバランスで明らかにしたといえる。オタワ・シチズン紙のジャズ・クリティック、ピーター・ハムはこう評している。「ローゼンウィンケルのような不思議な音楽がこれほど親密に聴こえるのは、偉業と言っていい」。


ローゼンウィンケルにとって、本作での最大の挑戦は、彼の言に従えば、「ビッグバンドを引っ張ってゆく主人公、メインのナレーターの役割を演じること」だったという。「ビッグバンドのエネルギーを後ろから受けながら、メロディを歌いあげていくには相当の力が必要になる。アレンジの最後の一筆を書いていく役割だから、それによってアレンジを統一していかなきゃいけない。この場所から別の場所へと、どうやってバンドを引っ張っていくのか。適切な時宜をうかがいながら、どのように演奏のなかに出入りするのか、それも、どういう構えで、どういう音域でそれをやるのか、すべて戦略的に考えなくてはならないんだ。普段どおり、ぶらりと曲に入っていくようなわけにはいかない。ビッグバンドにおけるソリストにこそ必要とされる技法ってものがあって、それはかつてない挑戦だったね。いままでの自分とは一線を画す挑戦だった」


偉大なるジャズの町・フィラデルフィアに生を受けたローゼンウィンケルは、ボストンのバークリー音楽院に学んだ後、ゲイリー・バートン、ポール・モチアンが率いるバンドの一員としてプロの洗礼を受けることとなった。すぐさま、バンドリーダーとして、作曲者として、そしてインプロヴァイザーとして注目を集め、ニューヨークのジャズシーンの顔役となっていった。スタンダードをこよなく愛し、ジャズの伝統に根ざしながらも、自分なりの音楽言語をつくりあげていく決意は当初から変わることがない。初期のアルバム「East Coast Love Affair」、「Intuit」に続いて、名門ヴァーヴから4枚のアルバムがリリースされた。「The Enemies of Energy」、「The Next Step」、「Heartcore」、そして「Deep Song」。とりわけA Tribe Called Quest のラッパー、Q-Tipをプロデューサーに迎えた「Heartcore」において、ジャズの枠には収まりきらない、ローゼンウィンケルの自由な音楽世界は、顕著に表現された。


続く、2008年の2枚組ライブ盤、「The Remedy: Live at theVillage Vanguard」 において、ローゼンウィンケルは、アクースティック・カルテットの生演奏というコンテクストに新しい美学を提示した。ボストン・フェニックス紙のジョン・ゲアリックはこう書いている。「歌を土台にしたトーナルなジャズにもかかわらず、自由で、力が抜けていて、スウイングに満ちて、テクニカルでいながら、温もりに満ちている。ローゼンウィンケルは、ちょっとしたコード、何気ないリズム、誰もが耳にしたことのあるようなリフレインさえもが音楽的なフックになりうるという自明の真実を明らかにする」。


カートは続いて、スタンダードに回帰した2009年の「Reflections」を発表。about.comのヤコブ・ティークロウは、「2009年の最もエキサイティングなアルバムのひとつ」と絶賛した。


リーダーとして、あるいはブライアン・ブレイド、ジョシュア・レッドマンやダニロ・ペレスなどのサイドマンとして目覚しい活躍を見せたニューヨークでの実り多き日々を終えて、カートは2003年にヨーロッパに移住した。最初はスイスのチューリッヒ、今はドイツのベルリンに居を構える。ベルリン・ジャズ音楽院にて終身在職権をもつギター科の長を務めるほか、ふたりの息子、シラスとエズラの父でもある。