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ザ・ヴォックス


ザ・ヴォックス

エリック・レニーニ & アフロ・ジャズ・ビート

01

ヴォックス
THE VOX ( ERIC LEGNINI )

04:43

02

ジョイ
JOY ( ERIC LEGNINI - KRYSTLE WARREN ) ※

04:28

03

キッチン・マキ
KITCHEN MAQUIS ( ERIC LEGNINI )

03:40

04

アイ・ニード・ユー
I NEED YOU ( ERIC LEGNINI - KRYSTLE WARREN ) ※

04:26

05

ロンドン・スポット
LONDON SPOT ( ERIC LEGNINI )

04:19

06

ニア・ザ・ハウス・オン・ザ・ヒル
NEAR THE HOUSE ON THE HILL ( ERIC LEGNINI - KRYSTLE WARREN ) ※

04:48

07

オールド・アンド・グレイ
THE OLD AND GREY( ERIC LEGNINI - KRYSTLE WARREN ) ※

04:57

08

ブラック・プレジデント
BLACK PRESIDENT ( ERIC LEGNINI )

05:31

09

ローズ・カラード・グラッシズ
ROSE COLOURED GLASSES ( ERIC LEGNINI - KRYSTLE WARREN ) ※

05:27

10

キャニオン・レディ
CANYON LADY( KRYSTLE WARREN ) ※

06:15

11

シネマティック
CINEMATIC ( ERIC LEGNINI )

04:34

原題

The Vox / Eric Legnini & The Afro Jazz Beat

価格:¥2,100 (税抜価格:¥2,000)

規格番号:SONG X 005

発売日:2011年5月18日

iTunes他デジタル配信予定:2011年 6 月1日

- プロデュース - アレンジ
エリック・レニーニ

- 参加ミュージシャン :
ERIC LEGNINI : PIANO, FENDER RHODES, B3 AND PERCUSSION
FRANCK AGULHON : DRUMS, PERCUSSION
THOMAS BRAMERIE : DOUBLE BASS, ACOUSTIC GUITAR ON 09

KRYSTLE WARREN : VOCALS, ACOUSTIC GUITAR ON 10
DA ROMEO : ELECTRIC GUITAR
KIALA NZAVOTUNGA : ADDITIONAL ELECTRIC GUITAR ON 01&08
BORIS POKORA : TENOR SAX, BASS CLARINET,FLUTE AND BARITONE SAX
JULIEN ALOUR : TRUMPET AND FLUGELHORN
JERRY EDWARDS : TROMBONE
OKUTU MOSES : PERCUSSION

- 録音 & ミックス
RECORDED NOVEMBER 7TH TO NOVEMBER 9TH 2010 AT STUDIO LA BUISSONNE, PERNES LES FONTAINES - FRANCE RECORDED BY GÉRARD DE HARO ASSISTED BY NICOLAS BAILLARD.
MIXED AND MASTERED BY S. HUSKY HÖSKULDS AT GROUNDLIFT STUDIOS, LOS ANGELES.

updated on May 19, 2011



「Vox」の語にはふたつの意味がある。プロデューサーとして、 つねに独特な声に魅せられてきたエリック・レニーニは、同時に、多彩なコネクションをもつピアニストでもある。20 年以 上におよぶ彼のキャリアは、音楽の世界の多面体の魅力を旅するものだった。前作「Trippin'」を引き合いに出すのなら、それは「good trip(いい旅)」だったといえる。ミーターズのいなたいファンクと、ビル・エヴァンズの静謐なスウィングに捧げられたこのアルバムは、音楽学校で、ニューヨークのシーンで、 そしてパリのジャズクラブで鍛えぬかれたキーボーディストが 5 年前に結成したトリオで製作された 3 部作の最後を飾る作品だった。「Miss Soul」「Big Boogaloo」「Trippin」の三部作には、リエージュ(※1)の近郊の町・ヒュイに生まれたピアニストを形作ったさまざまな影響が詰め込まれたものだった。少なくとも「エクレクティック(折衷的)」とは呼んでおきたいそのキャリアに由来するバラエティに富んだ音楽の旅は、飽くなき好奇心と多様性を探求しつづけ、音楽の歴史に深く根ざした感覚を持ち続けてきた音楽家の今後の飛躍を、明らかに期待させるものだった。「成長したい。そのことだけを考えてきたんだ。何かをつくるうえで、自分がかつてやったことをしないというのは大事な指針となる。けれども、人が通った道に従う、というのはまた別の話だ」

 「Vox」が、最新作のタイトルだ。「声」の選定にはじまり、エリック・レニーニは、今作で「A」から「Z」にいたるまですべてをコントロールしている。40代に入りますます意気軒昂、そのさまはギアを一段シフトアップしたかのようだ。アンリ・サルヴァドール(※2)からヤエル・ナイム(※3)、スレイマネ・ジャマンカ(※4)、クリストフ(※5)まで、ヒップホップからジャズにいたる多くのボーカリストと共演を重ねてきたピアニストにとって、声とい うものの導入はひとつの必然だ。「声があることによって、すべてがクリアになり、より理解しやすくなるんだ。文字通りね」。モンクを愛してやまない人物にしてみれば、当然の帰結だろう。アルバムの制作は「Trippin」の発売直後からはじまった。パリの La Villette での Carte Blanche Show で初めて聴衆の前でお披露目され、その後、ガーナでの 1 週間の滞在を経たのちに、ロサンゼルスのスタジオでチューンナップされた。ここでは、シェリル・クロウ、ノラ・ジョーンズやソロモン・バークらとの仕事で数々の グラミー賞を受賞してきたアイスランドの音響エンジニア、S・ハスキー・ホスクルズを迎えてレコーディングが行われた。本作は間違いなく、ピアニストとしてのみならず、編曲家、作曲家、プロデューサーとして変幻自在な活動でしられる才人のターニング・ポイントとなる作品だ。

 本作で、エリック・レニーニはその 4 つの役割を十全にこなしてみせた。収録された 11曲のうち、10曲は自身のペンによる。本人に言わせればレパートリーは、「わりとアップビートで、そこここにメランコリーがまぶしてある」ということだが、多種多様なアンビエンスとフォーマットにもかかわらず、アルバムを貫く一貫性は疑いようもない。アップテンポなインストナンバーと優雅な歌は、それぞれアフロビートの「黒い大統領」(※6)と、ジェラルド・マンリー・ホプキンズ(※7)の哲学的なバラードへの真率なトリビュートとなっている。旧作の再録音となる
「Nightfall」は、クリストル・ウォーレン(※8)のブルージーな 歌声が耳を奪うが、その奥底ではブリティッシュ・アフロジャズのスウィングとポップなハーモニーが、そして90年代のハーレムの鍵盤の響きが脈打っており、それがピアノのソロパートで軽 快に心の琴線をはじいてゆく。幾層にもはりめぐらされたこの迷 宮内に響いているのは、サンプリング文化の優れた見本であり、 過去から現在までのカルト的音楽のこだまであり、骨太なリズムと、力強いハーモニーだ。芯のある旋律をつくりあげることにかけてレニーニは専門家だ。細かい糸を特有の器用さで縒り合わせ、 メロディックなコンポジションを一枚の布として織り上げてみせ るわけだが、そうしてできあがったアルバムは、彼の技芸と音色によって美しく刺繍のほどこされたキャンバスと考えてもいいだろう。

 さらにいえば、The Voxは、ジョイントベンチャーでもある。 中心にいるのは、揺るぎないリズムを支える信頼に満ちたふたりのパートナー、ドラムのフランク・アグロンとダブル・ベースのトマス・ブラムリーだが、ここにふたりのギターが加わる。 ベルギー人のダニエル・ロメオは、ファンク・ベーシストにして、 レニーニの子ども時代以来の旧友。そして、コンゴのキアラ・ ンザヴォトゥンガは、フェラ・クティの盟友にして、バンド「ゲットー・ブラスターズ」の創始者だ。さらに、オールド・スクールなブラスセクションがここに加わる。ジャズ・ファンクというならば、ブレッカーブラザーズの頃の古き良きジャズ・ファ ンクがここにはある。エリック・レニーニ&ザ・アフロ・ジャズ・ ビート。このバンド名以上に、本作を物語る言葉はないだろう。 それぞれの語に欠かすことのできない意味が込められている。

 「ジャズ」は、ルーツと歴史性に関わる部分を表すだろう。プ ログレッシブ・ロックという言い方にならって、進化という言葉を用いるならば、ジャズは「地霊とともに即興をし、そのなかで新たな発明が繰り返されてきた音楽」ということになるが、それは、まさにレニーニの導師のひとり、デューク・エリント ンが当時やっていたことでもある。続いて「アフロ」。これは リズムに関わる部分を表す。別の言葉で言うならば、70年代の トニー・アレンに象徴されるいびつなリズムとでも言おうか。 そして「Beat」。これは、美学的な部分に関わるのだが、言い方を変えるならば、ファンク、ヒップホップ、サンプル、ループの文化へと連なる部分であり、レニーニに言葉を借りれば「リズムの行間のなかにトランスを生み出す」と作用を生むことになる。「ハーモニーの部分ではジャズにとどまりたかった。けれども、機能はアフロビートなんだ」と、レニーニは説明する。 とはいえ、モノマネをすることに主眼があるわけではない。むしろまったく新しいヴィジョンをつくりあげるのが本作の意義だ。それはクリストル・ウォーレンの声についてもあてはまる。 アフロ・アメリカンの新しい歌姫は、その陰影に富んだ存在感で、アルバム全体に両義性をもたらす。彼女がフィーチャーさ れた6曲の歌は、フォークのメランコリーと、ソウルのきらめきとの間をゆらめいている。

 The Voxは単なるプロジェクトではない。このアルバムは、キーボードを操る魔法使いの弟子が導く旅にして、何百時間という時間をスタジオとツアーに費やし、ファスト・フードで腹を満たしながら音楽への飽くなき食欲を駆り立てる、未完の音楽家の継続中の作品だ。こうして彼は、彼の個性を彩る多種多様な 要素を結びつけ、文脈づけながら、目下自分のアイデンティティを構築している。アフロビート、ジャズ・ソウル、フォーク・ポップといったそれぞれ異なった世界があらゆる曲のなかで共存する。刃物を渡るような名状しがたい精密さでそれなしとげる調和の錬金術は、「Moogoo」との異名をとる、レニーニの分身によって、スタジオという名の実験室での夜ごとの格闘のすえに成し遂げられる。本作は、間違いなく、レニーニが召還できるものをすべて召還したアルバムだ。ここには、彼の、いや彼だけのトレードマークがすべて刻印されている。復古主義でも前衛でもな い。レニーニは、自分自身の時計に合わせて、正しいタイミングで動く。その時計は、つねに彼の「現在」に設定されている。そこでは、70 年代の音が、今日の音と違和感なく溶け合っているのだ。

※1 ベルギー第 5 の都市。
※2 1917 年生まれのフランスの歌手。ジャンゴ・ラインハルト、ボリス・ヴィアン などとも 共演したこともあるフランス音楽界の人間国宝
※3 イスラエル出身フランス在住の女性 SSW。シングル曲「New Soul」で世界的に ヒット
※4 セネガル出身フランス育ちの音楽家・リリシスト。フランスのポエトリー・リーディ ングのジャンル「Slam」の代表的アーティスト。
※5 フランスの SSW。1960 年代から現在までフレンチポップ界をリードしてきた重 鎮のひとり。
※6 アフロビート音楽における最大のカリスマ、ナイジェリアの音楽家フェラ・アニ クラポ・クティ、のこと。
※7 19 世紀末の英国人詩人。ヴィクトリア朝の詩壇を代表するひとりで、イエズス会 の司祭としても知られる。
※8 アメリカの女性 SSW。フォークとソウルを自在に行き来するオーガニックなサ ウンドと歌声で知られ、過去にザップ・ママ、エリカ・バドゥ、マーサ・ウェインライ トなどの前座を務めた経歴をもつ。最新作は 2009 年の「Circles」。